Farmer's Talk Pop

(2018年12月末、はてなダイアリー「夢男のファーマーズ・トーク」を統合しました)

大スクリーンの『アラビアのロレンス/完全版』

アラビアのロレンス (字幕版)

☆5

もう1月も終わりそう。するとその後にはアカデミー賞もあるわけで、最近の映画館のプログラムは割といい映画が目白押し。最も近い映画館で今になってようやく上映されているオダギリ・ジョー監督作品の『ある船頭の話』とか、友人から見たか見たかとせっつかれてるのにまだ見てない『スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け』、大好きなスカーレット・ヨハンソンが母さん役で、空想上の友達「アドルフ・ヒトラー」の助けを借りて、青少年集団ヒトラーユーゲントの立派な兵士になろうとする少年ジョジョユダヤ人少女エルサの物語『ジョジョ・ラビット』、古き良き時代雰囲気漂うカーレース映画『フォード&フェラーリ』などなど枚挙にいとまがない。

とは言っても、いくら農閑期でわりと暇だし、暖冬だから雪の心配はないからと車で1時間以上かかる映画館にそうそう行くわけにもいかないわけで、自分なりに作品を厳選して見に行っているわけなのである。

そんなわけでもうすぐ本年度で終わるという「午前十時の映画祭」の『アラビアのロレンス/完全版』を見てきました。初めて見た時からTV画面からあふれ出る圧倒的なスペクタクルに撃沈されているこの作品。長尺ゆえにNHKの洋画劇場でもめったに放映されないこの映画。この映画がスクリーンで上映されるとならば、さらに「午前十時の映画祭」が今シーズンで最後だとするならば、他の映画は後回しにしてもこの砂漠の映画を見ない手はありませぬ。

デヴィッド・リーン監督作品。ピーター・オトゥール主演でアラブ民族の独立闘争を率いた英国陸軍将校トマス・エドワード・ロレンスの半生を描く。音楽をモーリス・ジャールアカデミー賞の作品賞を初めとした計7部門受賞。完全版227分。途中、インターミッションあり。撮影には2年以上の時間がかかったらしい。上映時間だけ見るととても長い映画。でも、決して冗長ではない。
黒画面をバックにティンパニーが鳴り響いて“序曲”が始まるとその空間は砂漠への準備。映画が見始めるとスクリーンの中から熱風がこちら側に吹いてきた。

僕はこれから砂漠を旅する。


マッチの火を吹き消すとそこは朝日が昇る砂漠
王子に会うため、ラクダで旅をするのだ
アッラーを崇めるベドウィンの心
砂漠では水が命そのもの
地平線の蜃気楼の中の黒い男
掟を破るものは決して許されない
そこは厳しくも美しい砂漠の世界

白夜の光明にも 夜間の暗黒にも
神は汝を見捨てず 心より迎えたもう
汝の行く手は 過ぎし日より恵まれ
最後には神の慈しみを受け 汝は満ちたるるべし


かつて栄華を誇ったイスラム世界も今は昔
帝国が砂漠の暮らしを脅かす
希望を求め、砂漠を渡るのだ

ハット ハット ハット
照りつける太陽の下、ラクダは駆ける

どこまでも青い空。遥か遠くの砂嵐
喜びのオアシス。命の水
そして、長い一日の終わり

生は死。死は生
信頼と友情
傲慢さと裏切り
そして絶望

よそ者はその土地の者になれるのか?
よそ者は一生、よそ者なのか?


大スクリーンの『アラビアのロレンス』は映像の細かい所までよく見えた。
砂漠はただの砂ばかりでない。白い砂、茶色い砂。ひび割れた地面。岩や緑の木、枯草。青い空。燃えるような真っ赤な太陽。砂が風に飛ばされている場面では、飛ばされている砂の一粒一粒が見えるようだ。
視覚だけではない。音もだ。ラクダや馬の駆ける音。谷に反響するこだまや銃声。モーリス・ジャールの壮大な音楽は大きな画面にこそ合う。

とはいえ、その実、大スクリーンの『アラビアのロレンス』は時に現れる砂漠の静粛こそが魅力なのかもとも思う。 文字通り「サウンド・オブ・サイレンス」。
砂漠の静けさを楽しむのだ。

アラビアのロレンス/完全版』のDVDには撮影当時のメイキング映像が収録されている。予想どおり、過酷な撮影。しかし、砂漠をそのまま映像に切り取ろうとしたのか、まるで砂漠のドキュメンタリー映画を撮っているかのよう。スタッフは皆、自分たちの仕事に誇りを持っている。
映画を見た後にこのおまけの映像は必見である。

ああ、ネットにも書籍にも『アラビアのロレンス』の情報が多すぎて書ききれない。ラクダがとても可愛かったということを報告して、ひとまずこれを締めたいと思う。

壮大な映像と、それに引けを取らない中身の濃さが、本作の評価とリーンの名声をさらに高めた。植民地主義の愚行と戦争の偽善が強調され、ロレンス大佐は自分の指揮したアラブ反乱軍がトルコを打ち破った勝利に酔いしれる。しかし尊厳が血への欲望に、勇気が尊大さに変わってしまったことに気づいた時、英雄的な存在が力を失う。栄光からの転落を文学的な繊細さと巧みな演出で描く大きな視野とスケールを持つ神の叙事詩と呼ぶにふさわしい作品。(JKL)
(『死ぬまでに観たい映画1001本』 p406より)