Farmer's Talk Pop

(2018年12月末、はてなダイアリー「夢男のファーマーズ・トーク」を統合しました)

ギルバート・グレイプ

BS-NHK録画(初見)、☆4

ジョニー・デップレオナルド・ディカプリオ主演。アイオワ州のある町にずっと母親と姉弟4人で住んでいるギルバート(ジョニー・デップ)。父は皆が小さい頃に亡くなっており、障がいのある弟、肥満で動くことが困難な母親を姉と妹の3人で面倒を見ている。田舎町ゆえに仕事もあまりないが、日々、家族のためにがんばっている。そんな折、キャンピングカーの母娘が町にやってきた。ベッキージュリエット・ルイス)だ。近所のおばさんに誘惑されつつも、ベッキーが気になるギルバート。将来は何がしたいの、と聞かれて答えられない彼。また、弟のことが負担になりつつあるギルバート。そして…。

「妹の恋人」の役とは正反対に、逆に弟の世話をしなくてはならない兄役のジョニー・デップ。続けてこの二つの映画を見ると、ちょっと皮肉な感じもする。でも、どちらも決して悲観的ではないのは、家族への愛が映画の全編にわたって感じられるから…。
この映画で最初に圧倒されるのは、アカデミー賞にもノミネートされたというディカプリオの演技。一緒に観ていた嫁なんて、彼がどこに出ているのかわからなかったぐらい。「タイタニック」では青年だった彼がここでは全くの少年。ママが大好きで兄を慕う演技は演技じゃないみたい。今の彼があるのは、こうしたキャリアの積み重ねなのかと感心してしまう。

印象に残るのは、ディカプリオの演技ばかりじゃない。デップ演じる兄のギルバートの気持ちにだ。田舎に育った人ならわかると思うが、高校を卒業して、これから自分が育った何もない町にずっと住むのかと思うと気が滅入ることがある。特に男ならば、家の跡継ぎとして残ることをまわりから期待される。それでも父親がいれば出て行くことは可能だが、ギルバートのように父を亡くしてしまうと家族の面倒も見なくてはならない。ましてやアーニーのような弟もいるとすれば…。同じ田舎の長男として育った自分には、田舎に残されたという気持ちは少しはわかる気がする*1。また、文句も言わず家事をする姉、文句も言いつつも一生懸命な妹も本当はそれぞれ悩んでいるはずなのだ。アーニーが彼の誕生日のために姉が作ったケーキをひっくり返してしまって、新たに自分のつとめている食料品店とライバルの大型スーパーに買いに行くギルバート。本当はお金がそんなに無いはずなのに弟のために…。弟の18歳の誕生日のために家族みんなで準備をするグレイプ家の皆。大変なはずなのにすべては弟と彼を愛する母のために…。

ベッキーとの出会いで自分のこれからを迷うギルバート。波乱の末に下した結論は「再出発」。姉弟でいい思い出も悲しい思い出も「見送る」場面では、一緒にそこにいる気持ちになってしまった。彼の下した結論には心から拍手を送りたい。

この映画も脇役がすばらしい。ギルバートを誘惑する近所の奥さん、メアリー・スティーンバーゲン。そういえば、ケビン・クライン「海辺の家」でも誘惑おばさんだった…。ギルバートに別れをいう場面はなんともいえない寂しさが漂い、ベテラン女優の上手さを感じる。ベッキージュリエット・ルイス。映画「カリフォルニア」のブラッド・ピットの恋人役が印象的。ここでも不思議ちゃんな雰囲気。ギルバートの友人役ジョン・C・ライリーもいろんな映画で見るが本当に味のある俳優だなと思う。「アビエーター」でディカプリオの右腕として経理をすべて任されたことを思い出すと、この「ギルバート・グレイプ」のサイド・ストーリーが「アビエーター」、なんて妄想したくなる。いい映画は脇を固める俳優も良いことを確信。

とはいえ、結論として、この映画はグレイプ家のお母さんが一人勝ち。圧倒的存在感。保安官も負けるわけだ、その迫力に…。アーニーを助けに行くシーン。階段を登るシーン。子供たちを想う母親としての深い気持ちが現れていた。グレイプ家の母さん、万歳!

*1:自分は一度田舎を出てUターンで戻って来たので、もはや、腹が据わって田舎に住んでいる、が…