Farmer's Talk Pop

(2018年12月末、はてなダイアリー「夢男のファーマーズ・トーク」を統合しました)

農書の教え

 学生時代にいつも図書館で見かけてはいたが、読んだことがなかった本のひとつに昔の「農書」があります。この「農書」が1月27日付朝日新聞「窓」欄でとりあげられていました。農文協発行の「日本農書全集」が昨年暮れに完結した、とのこと。
 なぜ読まなかったかというと、とにかく学生時代の夢男は農業の「農作業」よりも「技術」にばかり目がいって、伝統的な農法などの分野に興味をもっていなかったからです。田んぼに入っているよりも机で顕微鏡を見ていたかった、ということです。
 ところが就農している今、この新聞記事をきっかけに読みたくなり、近所の町の図書館に全集があったのを思い出して早速借りてきました。とりあえず、借りたのは宮崎安貞の「農業全書」。
 この本には農業に関する多くの分野についてわかりやすく書かれています。現在の農業書を読むのとちがい、化学肥料、農薬、農業資材の名前が全くでてこないのは、すごく新鮮に思えました。いかに現在の農業がそういったものに依存しているかがよくわかります。また、農業技術ばかりでなく、生活面にもふれているので江戸時代の農民の暮らしぶりを知ることができます。「家宅を始て造り営む時に、杉檜などの良木をうへをきて、後年破損のためにそなへをくべし。」を始め、農村の生活の知恵が集められています。口絵写真の解説によると、「『農業全書』が約200年にわたって発行され続け、全国に大きな影響を与えた」、とあります。「農業全書」が出版されたことは、その後の農業技術の普及に果たした役割は大きかったのでしょう。
 読んでいて、昔も今も農家の生活は基本的には変わらない、ということを感じました。農作業など、今も基本的に同じようにしていることが多いですね。「曉方おきて天気の晴雨をよく見ハかりて、猶其日の手くバりを定むべし。」の一文をはじめ、どれもこれもまさにそのとおりと思えることばかり。農業技術は進歩しても、その根本は変わらないのでしょう。
 この「農業全書」、どうやらじっくり読む必要があるようです。
 夢男が学生時代に学んだ農学、就農してから現在まで行っている実際の農業は全てスタンダードな技術に基づくものです。今はいろんな情報があふれ、農薬、肥料、農業資材など各社各様なものが存在しています。また、様々な種類の農法を説明した書籍が出回っています。農家がそれらのどれが自分の農業環境に適しているか全て検証することは現実的に不可能です。いってみれば、その時に最良と思える方法を選ぶことしかできないでしょう。ベテランの農家からすればまだまだひよっこの夢男は、どれが良いのか選ぶことができないというのが本音です。逆にこんな状態だからこそ、何百年もスタンダードだった「農業全書」のような「農書」の技術にこそ、参考になることがあるのかもしれないのかもしれません。完全な無農薬の有機農業である「江戸時代からの農業」から始めてみると、生産に必要なもの、いらないものが見えてくるのかも。
 また、「農業全書」には作物・野菜図鑑といえる章もあります。
 夢男の家の基幹作目であるキュウリの頁を見てみます。ありました。
「黄瓜又の名ハ胡瓜、是下品の瓜にて、賞翫ならすといへども、諸瓜に先立ちて早く出来るゆへ、いなかに多く作るものなり。都にハまれなり。」
 元禄時代においてキュウリがこういう位置付けなのが、キュウリ農家としての夢男はショックです。まあ、瓜類でもメロンなどは美味なものとされていたようなので、キュウリが下等といわれてもしょうがないかもしれませんが。
 でも、現在、キュウリはトマトと並び小売店の野菜の売上高では1、2位を争っています。朝日新聞社の「植物の世界」のキュウリの説明に「日本へは平安時代の10世紀以前には渡来していたが、野菜として一般的に食べられるようになったのは江戸時代後期になってのことである。」とあり、「農業全書」が出版されたあとに広まったということになりますね。キュウリ農家としては少し安心しました。
 とにかく、新聞記事から知った「農書」から予期せぬ収穫がありました。