Farmer's Talk Pop

(2018年12月末、はてなダイアリー「夢男のファーマーズ・トーク」を統合しました)

年を重ねると映画の見方が変わること

久しぶりの更新。この農閑期は結構、映画を観たんだけど全く感想を書いてなかったという…。最近見た2本がとても良かったので、その映画のことを。


若い時、見なかったというか、避けてた映画があります。"ヨーロッパ映画"、"ミュージカル映画"、"老人映画"。ところが最近、大丈夫になってしまいました。それは、どうしたことか…。見られるようになっただけじゃなく、感動して映画のラストクレジットで震えてる始末…。そんな2本を紹介します。

バベットの晩餐会

GyaO(初見)、☆4

バベットの晩餐会 HDニューマスター  [DVD]


19世紀。北欧の海辺の寒村。年老いた牧師と美しい姉妹が貧しいけれども清く慎ましく暮らしている。美人娘たちだけに若い男からの求婚もあるが、なぜか彼女たちは拒絶し、父と暮らす道を選ぶ。何年も時が経った頃、フランス革命から逃れてきたというフランス人女性バベットが村の姉妹の家にやって来た。彼女には来た理由があった。その理由とは…。

この映画は、先のキーワードでいくと"ヨーロッパ&老人映画"。友人のSさん選「ハ行三大名作映画」の1本なのです*1。この映画は、実はドラマがあるようでドラマがない。 だって、求婚された姉妹はあっさり求婚を断るし(玉の輿にもかかわらず…)、それはものすごい伏線で後半に活きるのだろうと思えば、たいして活きてははこないし…。たいしてドラマチックじゃないドラマの中で、私たちに劇的な感動をもたらすのがバベットの存在。彼女はどんなことを姉妹と村にもたらしたのでしょうか。ひと言でこの映画を語るとすれば「愛と信仰と芸術」ってことでしょうか。よだれが出ること請け合いの映画です。それはなぜかは見てのお楽しみ!おいしいものは出てくるのを待つのが流儀です。(←解説しちゃうとネタバレになってしまうから。笑)

ロシュフォールの恋人たち」

Apple TV(初見。連続して3回も見てしまった…)、☆5

ロシュフォールの恋人たち デジタルリマスター版(2枚組) [DVD]

フランスの大西洋に面した港町ロシュフォール。この街に双子の美人姉妹、ソランジュとデルフィーヌが住んでいた。それぞれ音楽家とバレリーナを目指す姉と妹。2人は素敵な男性と巡り合うことも夢見ている普通の女の子でもあった。そんな時、街のお祭りのためにイベントを催す一団がやってくる。素敵な男女の出会いを求める若者たち。不思議な運命の歯車は動き出すのであった…。

最近、ミシェル・ルグランの15枚組のCD集を買いました。ミシェル・ルグランといえば、マックイーンのファンである夢男的には映画「華麗なる賭け」のルグランだし、「栄光のル・マン」のルグラン。カトリーヌ・ドヌーブの「シェルブールの雨傘」のルグランでもあり、「ルグラン・ジャズ」のルグランその人であります。昨年末に来日したとか、「ジャジック・イン・クラシック」というハープ奏者でもある夫人とともに新作CDを出したと知り、ちょっと調べてみたら、その新作を含んだ先のCD集を知ったというわけなんです。新作を含んだ15枚で考えると格安。選ばないわけがありません。

Anthology

このCD集には、先の「シェルブール…」「ロシュフォール…」の監督であるジャック・ドゥミとルグランの映画音楽集が一枚あって、その中に「ロシュフォール…」の4曲が収録されています。この4曲がこれまた珠玉の4曲で、これを聞いただけでガーンときてしまいました。もう、文句のない映画音楽集です。そして見た「ロシュフォールの恋人たち」映画本編。期待を全く裏切らないどころか、完全完璧なミュージカル映画でした。


ミュージカル映画は本当に苦手なのです。「サウンド・オブ・ミュージック」は未見だし。「雨に唄えば」も未見。映画好きとしてはまずいと思うのだけど。あの有名が曲を聞きすぎて、本編を怖くて見れない状態(笑)というか…。

見たミュージカル映画といえば、シドニー・ルメット監督でモータウンが作ったクインシー・ジョーンズ音楽担当の黒人オールスターミュージカル「ウィズ」。ダイアナ・ロスだし、マイケル・ジャクソンだし、リナ・ホーンだし、音楽的にもスタッフ的にも全く問題がないですね。LDのライナーノーツにも、バックバンドはジャズ、フュージョン界のビッグネームばかり。正直、私的にかなり好みです。がしかし、シドニー・ルメットがまずかったのかな。まったく、面白くない映画で、結構つらいです(笑)。まずいのはセンスあふれたオープニングの後、かわいくない(失礼!)ダイアナ・ロス=ドロシーの登場。コスチュームでまったく顔の見えないマイケル・ジャクソン=かかし。しかし、スタッフがスタッフだけに歌と踊りはすばらしいです。これまたまずいのは、人っ子一人いない無人の街やセットで、キャストが踊り、歌いまくっていること。ニューヨーク、オールロケというが、人のいないのがとても不気味。これだったら、完全に舞台のほうがいい(あ、もとはブロードウェイな作品か…)。何度もいうけど、音楽だけは最高に好みなのです。

トラボルタとオリビアニュートンジョンの「グリース」も苦手な一本です。これも音楽はとてもいいけど…。苦手なのは、若かったトラボルタとかわい子ちゃんコスチュームのオリビア。これもロケが多い映画なんだけど、なんか浮いてるんだよなあ。

その点、「ウエストサイド物語」はとても素晴らしい。長い長いオープニングがとてもいい。だんだんとドットが実写の摩天楼に変わって、そのまま空撮でニューヨークの街で対立するジェット団とジャーク団に画面が変わる。もう最初からハマっちゃいます。

「ヘアースプレー」は最高!トラボルタが女装してどうする、と突っ込みを入れたくなったが、ラストでダンスの天才トラボルタの復活が見られて思わず感動する。ミシェル・ファイファーもびっくりすくぐらい歌が上手なのは「恋のゆくえ ファビュラス・ベイカー・ボーイズ」で承知なので、とても安心。底抜けに明るいこれぞ、ミュージカルです。この「ヘアスプレー」を見てから、ミュージカル映画を見直しちゃったのですね。

そして、「ロシュフォール…」と同様、ドゥミ&ルグランの「シェルブールの雨傘」。名作です。美しいです。人生がとても切ないです。すばらしい映画です。でも、悲しい思いするのがわかったから、一回しか見たことがありません。


今回の「ロシュフォールの恋人たち」。タイトルが物語ってます。出てくる人出てくる人、みんな、恋に恋い焦がれています。なので、歌って踊りまくります。その気持ちは色が物語ってます。みんな、白とパステルカラーです。街も同じく、白とパステルカラー。天気のいい街はどこも恋する気持ちがあふれてます。オープニングの「キャラバンの到着」がすばらしいです。そこに登場するあの橋、というか橋の代わりの移動桟橋というか、初めてみました。皆、そこで踊ってます。ジャズです。おしゃれです。そして広場で踊りまくります。躍動感があります。双子の姉妹のアパルトメント。「双子姉妹の歌」がかわいくておしゃれですばらしいです。その後の展開は、いきなり歌ってももう違和感はありません。もう世界に入ってしまいましたから。
ロシュフォール…」のミュージカル世界は、画面の隅っこまでみんな踊ってます。踊ってる脇で普通に歩いてます。画面の遠くに車が走ってます。こういう世界なんです。先のモータウンの「ウィズ」は街に人っ子一人いません。ビッグスターいっぱいだから、巨大なセットとロケ地の人払いが必要だったのでしょう。「ウィズ」な世界は音楽が素晴らしいのに、とても寂しい世界です。映画の完成度としては、断然「ロシュフォール…」に軍配が上がります。でも「ウィズ」も音楽がいいんです(何度言うんだ!笑)


2 l'arrivée des camionneurs - YouTube


Chanson et paroles des soeurs jumelles (LES ...

ロシュフォールの恋人たち」の世界は、人生が素晴らしい、生きることはすばらしい、恋することはすばらしいと思える若い世界です。若者のための映画です。何で若い時、この映画を見なかったのだろう…。でも、年取ってからでも、この映画を見ることは遅くありません。過ぎ去った青春。未来への希望。無いもの、手に入らないものは多すぎます。でも、そういうことも自分にあったことは忘れてはなりません。年取ってこそ、この映画を見ることは、自分の未来を切り開く糧になるような気がします。

バベットの晩餐会」の世界は枯れた世界です。「ロシュフォールの恋人たち」とはまるっきり正反対の世界です。清貧な世界。年寄りの世界。しかし、そこには崇高な精神世界があります。愛する人を求めて行動しなくても、お金無くなっても希望や愛は無くならないと説いているような気がします。年取ってこそ、この映画を見ることは、自分の未来を静かに待つための術を知るような気がします。

"バベットの晩餐会"
「ふたりの老いた姉妹が送る質素な生活と、この老姉妹と信者のために、パリ・コミューンを逃れてユトランドに落ち着いたメイドのバベット(ステファーヌ・オードラン)によって、ただ一度だけ供される晩餐… …自身が有名なグルメであるオードラン(注:バベット役の女優さん)は、よだれの出そうな見事な演技を楽しんで披露している」(GA)


"ロシュフォールの恋人たち"
「この映画のすべてが幸福、明るさ、生きる喜びを内包している。…ルグランとの共同作業で、ドゥミは魔法ランドをつくりだし、そこでは揃いの服を着た姉妹が姉妹であることの喜びを歌い、週末の路上で開かれる町の祭りが愛と幸福を祝福する場となる。…この作品はほかのどんな映画よりも幸せな気分にさせてくれる。それは決して小さいことではない」 (EdeS)

(『死ぬまでに見たい映画1001本』より)


双子の姉妹を演じたカトリーヌ・ドヌーヴフランソワーズ・ドルレアックは実際にも姉妹だったそうで、この映画の後、姉のドルレアックは交通事故で25歳の若さで亡くなったのだそうです。それだけに夢と希望と愛を描いたこの映画が、永遠に幸せな世界に思えるのも納得できます。少し悲しいことではあるのだけれども…

*1:残りの2本は「バクダット・カフェ」「八月の鯨」。「八月…」のみ未見