Farmer's Talk Pop

(2018年12月末、はてなダイアリー「夢男のファーマーズ・トーク」を統合しました)

その時、やらなければならないこと… 「戦場にかける橋」

戦場にかける橋 No.14 p345

BS録画(初見)、☆5
ウィリアム・ホールデンアレック・ギネス主演、デヴィッド・リーン監督作品。アカデミー賞受賞の戦争映画の名作。

第2次世界大戦中、ビルマ・タイ国境の日本軍の捕虜収容所。ここでは連合軍兵士たちがバンコクラングーンを鉄道、クワイ河を渡る鉄橋の建設に従事させられていた。新たに加わったニコルソン大佐(アレック・ギネス)率いるイギリス軍の兵士たち。先に収容されていたアメリカ軍のシアーズ中佐(ウィリアム・ホールデン)、イギリス軍医クリプトン (ジェームズ・ドナルド)らがいた。収容所長の斉藤大佐(早川雪洲)は、期日までに鉄橋建設をはたすべく、過酷な労働を捕虜たちに強いていた。そんな状況でニコルソン大佐は鉄橋建設を命じられるが、将校の労役拒否、処遇の改善を訴えたが故、何日にもわたって独房へ入れられる。建設期限が迫る中、ニコルソン大佐の意志に根負けした収容所長は、条件をのんで、英軍と協力しての鉄橋建設を約束する。工事は困難を極める中、それに一体になって従事することでイギリス軍の士気回復も目指しつつ、着々と感性に向かう。そんな中、先に収容所を脱走したシアーズ中佐はイギリス軍本部と合流し、鉄橋爆破を命じられる。鉄橋完成まで間近。爆破チームはジャングルを鉄橋目指して進む。そして…

映画は始まってすぐのイギリス軍の行進で、兵士たちの口笛による「クワイ河マーチ」にブルッと震えた。「チャチャ、チャチャチャ、チャチャチャー」あの有名すぎるマーチはこんな風に登場なのか…。中学生の時、映画音楽に興味を持って初めて買ったのが、どこかのオーケストラが演奏したSFや戦争、スペクタクル映画のテーマ曲集レコード。その中にあったのがこの「クワイ河マーチ」。同じく収録の「史上最大の作戦」「大脱走」「遠すぎた橋」と共に忘れられない耳に残るマーチ。これらの映画の中で映画そのものを観てなかったのは「戦場にかける橋」だけで、今回ようやく自分の中の4大マーチ曲を「生」で聴けたことになる。観るのに30年かかっちゃった(笑)

あまりにも有名すぎる映画なので、だいたいの結末(鉄橋は爆破されるのかどうか…)は既に解説で読んでいたのだが、そんなことは関係ないぐらいすばらしい映画だった。それに至る過程を描いたドラマ部分があんなに深いものだったとは…。

そもそも戦争映画というのは基本的に、ベトナム戦争を描いた映画でよくみられる反戦映画、日本の戦争映画によくあるバックに主題歌が流れて主人公が死んでいく、俺たちは哀しいんだ、という感じの映画。またはこの作戦がなかったらもっと戦況は悪化、かつ平和は訪れなかっただろう、避けては通れないことなのだよ、的なタイプの3つに分かれると思う。自国側からみた反省点を描いたのであれ、とにかく哀しい悲しいという情感情緒でむなしさを描いたのであれ、自画自賛的であれ、たいていは一方の視点で描かれ、敵は敵ということには変わりない。まあ、どれも戦争という悲惨な事柄を扱っているから基本的には悲しいものなのだけれども。だから「戦争にかける橋」もてっきりこの中のどれかに属するかと思ってた。昔の映画だし、有名戦争映画だし…。だから今まで見なかったともいえる。ところがそれは違ってたのだ。

戦争映画にはマニアがいて、兵器の時代考証がおかしいとか、あれもこれもおかしいという指摘の映画の本筋とは別な解説がいっぱいある。あと、史実とは違うということもたくさんあるらしい。まあ、戦争映画というジャンルからいったらそういうことはあたりまえだと思うので、ここではなしとする。この「戦場にかける橋」も多分にそういうこともあるらしいのだが、そういうことじゃない。

何がこの映画を観て新鮮だったかといえば、3つの見方、アレック・ギネスのイギリス軍、早川雪洲の日本軍、ウィリアム・ホールデンのアメリカ軍(連合軍)の立場が公平に思ったからだ。イギリス・アメリカ合作映画だし、敵は日本軍だし、観ている自分は日本人だから、よほどの扱いで観てていたたまれなくなるのかなと思っていたらそんなことはなかった。鉄橋を期限内に完成させなければならない早川雪洲の葛藤。戦闘に負けて捕虜となった屈辱を鉄道建設を成し遂げることで誇りを取り戻したいアレック・ギネス。自由のため、作戦の成功を目指すウィリアム・ホールデン。異なる立場の3人の意思と葛藤を短いシーンで的確に描いていたように思う。

3人の想いの中で淡々と鉄橋は完成に向かう。緊張感あり、ユーモアありの人間ドラマはようやく大団円を迎える。エンディング・クレジットを観ながら呆然と「クワイ河マーチ」に聞き入る。あとに残ったのは「自分はその立場になった時、やらなければならないことと自分の意思とにどう折り合いをつけるのか」とした漠然とした疑問…。ああ、これって、いつも会社や組織の中で仕事をしているのと似てるな、と思った。そうなのだ。この映画も実は戦時とはいえ、ごく普通の人間を描いていたことに気付いたのだった。

「この第二次大戦の叙事詩的映画をひとつにまとめているのは、象徴的3人の主役。堅苦しく伝統を重んずるギネス、形式を嫌う皮肉屋のホールデン、そして自分では気付かずに米英の意思の葛藤の真ん中に立たされた日本軍大佐役の早川雪洲。そして最後の演出と編集が絶賛された、見事な離れ業というべき鉄橋爆破のシーンで、最も心に残るのは、マルコム・アーノルドの奇抜な口笛の曲「クワイ河マーチ」だ。(JKI)」(「死ぬまでに観たい映画1001本」より)


追記:イギリス軍の軍医役ジェームズ・ ドナルドはとてもいい味。アレック・ギネスの司令官に鉄橋建設に従事することの疑問を投げかけるこの映画の中で最も良識ある人物に描かれている。ああ、そういえばスティーヴ・マックィーン主演の「大脱走」でもイギリス軍司令官役。いい感じ…。また、ウィリアム・ホールデンの軽さも映画にユーモアを添えている。それがラストに活きている。なんというか…何ともいえない良さ…。