Farmer's Talk Pop

(2018年12月末、はてなダイアリー「夢男のファーマーズ・トーク」を統合しました)

ブラックだけど、実は腹黒くはない映画「博士の異常な愛情」

博士の異常な愛情 または私は如何にして心配するのを止めて水爆を愛するようになったか

AppleTV(初見。100円レンタル)、☆4

巨匠スタンリー・キューブリックのSFブラックコメディ映画。冷戦時代、合衆国の空軍司令官がおかしくなってしまってソ連に核爆弾を落とすように命令する。それを防ぐべく奮闘する合衆国大統領をはじめとする首脳のドタバタ劇。

これまで彼の作品は何本か見ているけど、この作品はどちらかというとなんとなく避けてたのだよね。モノクロだし核戦争がらみだし地味な感じ。なんといってもピーター・セラーズが主役なのだから、きっと癖がある作品なんだろうと。外したら怖いぞ、と。セラーズは子どもの頃、ピンクの豹のアニメの印象で「ピンクパンサー2」を見たら完全に大人のコメディ映画で、どこがおもしろいのかまったくわからなかった。それ以来、どちらかというと彼は嫌いな俳優だったのだ(しかし、遺作の「チャンス」は大好きな映画!)。「博士…」の映画の紹介でセラーズ演じている米国大統領の神経質そうなイメージも相まって、SF映画ファンとしては外せないはずのこの映画は見ていなかったのだ。CDショップの閉店セールで500円でDVDのスペシャル盤を手に入れるも、結局見ないでオークション行。で、何年も経って、この正月にiTunes Storeで100円レンタルしてたことを思い出してようやく見ることができた。

結果、おもしろかったあ!まあ、人によっては好みがあると思うけど、SF好き、戦争映画好き、「12人の怒れる男」が最後まで見られる人だったら断然面白い映画です。ある意味、どんな題材を扱っても難解で眠くなりがちなキューブリック監督作品の中では最もわかりやすく、笑える映画ではないかな。(「アイズ・シャット・ワイズ」でトム・クルーズがおたおたする姿も同じぐらい笑えるけど意味が違う)

セラーズが英国空軍将校、合衆国大統領、かなりおかしな博士(原題 Dr.STRANGELOVE その人)の三役を演じているけど、前の二人はものすごく常識人で好感度抜群なのがこの映画の救い。英国人将校、好きだなあ、このキャラ。あと、彼が演じている大統領も数々の映画で出てくる合衆国大統領のなかで一番かもしれない。そんなこともあって、映画で描かれている核戦争勃発寸前という状況の異常さに対して、セラーズ演じるどちらの役柄も本気で核戦争にならないように奮闘している。ゆえに安心して最後まで見ていられる映画になっているというのが、なんか可笑しい。あ、もう一人演じている博士はおかしくないと映画が成り立たないから、言及しないよ。さすがな可笑しさです。

ジョージ・C・スコットが比較的まともなほうの空軍の将軍を演じているけど、「パットン大戦車軍団」でパットン将軍を演じた彼を見ているせいか、半分狂っているんじゃないかと思うぐらいの軍人役なのに別に嫌いな感じじゃない。むしろ、目的に忠実でまじめというか。この映画の核戦争の引き金を引いた別な将軍の異常さから比べると真っ当というか。笑える愛すべきキャラである。

核戦争勃発寸前という異常な状況でかえって人間性が際立つというのは、映画の中のことばかりじゃないと思うんだな、なんとなく。

映画ラストのヴェラ・リンの"We'll Meet Again"が、映し出される映像とこの映画の内容を考えてもミスマッチなはずなのに美しく、むしろ希望がもてるように聞こえてしまうのは、今の世界が混沌としているせいなのかもしれない。

この曲、映画が見終わってからもユーチューブで探してきてヘビロテ状態。これじゃ、「夢男の異常な愛情 または私は如何にして心配するのを止めて『博士の異常な愛情』を愛するようになったか」じゃないか!


We'll Meet Again - Vera Lynn - YouTube

本作品はすぐれたブラック・コメディで、政治風刺、サスペンス笑劇、そして人間の手に負えなくなるテクノロジーという警告を与える要素も含む。(AE)
(『死ぬまでに見たい映画1001本』)


博士の異常な愛情(1枚組) [DVD]