Farmer's Talk Pop

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映画と郷愁と恋慕と… 「ニュー・シネマ・パラダイス」

ニュー・シネマ・パラダイス

通常版(Apple TV)と完全版(レンタルDVD)の2回。通常版☆5、完全版☆4
 No.16 p765

Facebookで、この映画は観ないと、といわれて初見の映画…。以前から泣ける映画ベストの上位に名前があがってくる映画でタイトルは知っていました。ずっと気にはなっていましたが、ポスターやDVDジャケット写真等でこの映画の主役の子どもとおじさんの自転車の絵を見て、子どもと老人の交流を描いた映画だとなかなか観る気にならなかったのも事実。紹介してくれた方がセンスの良い方で、その方がいいという映画ならば間違いないとすかさず自宅のApple TVで観たというわけです。


その昔、シチリア等の小さい村に「シネマ・パラダイス」という映画館があった。村の娯楽は映画だけだった時代。映画館は村にはなくてはならないものだった。
映写技師は初老のアルフレード。映画好きの少年トトがその映写室に入り浸り。映画の上映の手順を見て、操作を覚えてしまうぐらい映画が好き。子どものいないアルフレードはそんな彼に親しみを覚える。映画館の手伝いをしながら成長するトト。そんな時、映画館で大変な事件が起こってしまう…。


何も知らずに観たのが124分の版。村の映画館「シネマ・パラダイス」を中心としてトトの人生を振り返り、本当の田舎で何もなかった村とそこに住む家族への愛と郷愁がたっぷりと描かれていました。村に引っ越してきた美少女エレナへの恋心も、若かりし時の青春の思い出の一つとして表現されています。

結果、泣きました。それもいっぱいに…。村の人々の映画への愛。アルフレードのトトへの愛情。戦争で夫を亡くしたトトの母の苦悩。そして愛するエレナへの想い…。これが泣かずしていられますか。村の風景もさることながら、何度も繰り返し流れるエンニオ・モリコーネの音楽。この曲がかかるたびに、なんだか、この村のことを思い出して泣けてしまいます。

進学や就職で田舎から出て、田舎に家族がいる人の共通の想いがこの映画の中にはあります。そこには人を好きになったり、別れたりといろんな出来事もあったでしょう。日本でも外国でも変わらない想い。そんな、皆の思いをこの映画は代弁しているのだと思います。自分の中にすべて同じとはいえないけれども、この映画の中に自分を見るからこそ、皆が泣けてくるのがこの映画なのでしょう。

この映画について詳しく知りたくなり調べてみると、最初見たのは「国際版(通常版)」でした。それより50分長い「ディレクターズカット(完全版)」があることもさらに知りました。完全版には、カットされた多くのシーンとトトとエレナが別れた経緯、中年になった二人が再会する詳細なエピソードがあるようなのです。それを知った以上、見ないで感想は書けないな、と思いました。で、レンタルで借りてきました…完全版。

そして完全版を観終わりました。そして驚いたのなんのって…。前半、トトの少年期から家から出るところまでは、ほぼ一緒です。トトが少年期を終えて青年期に入ると青春期ならではのエピソードが多々追加されています。そしてエレナとの恋愛が始まると少しずつ様子が違ってきます。そこからのエレナとの別れ。そして、アルフレードの葬式への出席のため、何十年かぶりに村に帰ってきた来てからが大違い。描かれているシーンは同じでも、なんか"トーン"が違うのです。そして、エレナとの再会からエンディングまで、同じ場面にもかかわらず、とても同じ映画には思えませんでした。

通常版は村の映画館を中心にトトと取り巻く人たちを描いています。完全版はトトの青春と人生そのものです。

私は通常版を観て、何も知らなかったトトと同じ人生を歩み、そして泣きました。ところが、完全版では、トトが知らなくてもよかった、知らずにいた方がよかった事実をトトと一緒に知ってしまいました。う〜ん、う〜ん。だから、完全版を観て、むしろその事実を知ったショックで泣けませんでした。そうだったのか、と思うこと、小一時間(というのは大げさですが、それぐらい…)。


物事は多面的な面があります。人の人生には知らなくてよかったことがたくさんあります。例えば、恋愛で別れを経験したとして、本当の別れの原因はなんだったのか。事実を知ったら、さらにお互い傷ついたのではないかとか…。例えば、家族への想いもそうです。親子では言葉にしない思いはたくさんあります。知っているようで知らないこと…。それがあるからうまくいっている面もあると思います。
通常版と完全版を見たということは、それらの知らなくてもよかったことを知ってしまったのと似ていると思います。私が通常版しか観なかったのなら、私の中での「ニュー・シネマ・パラダイス」はあくまでも通常版のままだったでしょう。でも、完全版を観てしまいました。

ラストのトトのシーンからエンディング・クレジットは、知らなかった事実を知って、何ともやりきれない想いが残りました。通常版ではトトと同様、過去の思い出で泣いていたのにです。完全版では、あとに残ったのは「人生の悲哀」でした…。


どちらの版がいいかは、ここではなんとも言えません。ただ言えるのは、通常版を観て、感動したにもかかわらず、ずっと引っかかっていた疑問、「なぜ、トトは何十年も郷里の村に帰らなかったのか」「アルフレードはトトに村を出ることを強く言ったのか」が、完全版を観たことでその答えが出たのです…。

フランソワ・トリュフォー監督の『大人は判ってくれない』(1959年)が象徴する、映画とともに過ごした主人公の幸福な少年時代に、映画界の巨匠に対するトルナトーレの敬意が現れている。少年と映像技師の交流が、観客の心を和ませ、あたたかくする。(DD)(「死ぬまでに観たい映画1001本」より)